着物の達人講座

『着物の達人講座』 七 「何故着崩れる」

★その一 姿勢と帯の居処

 「着物は着崩れる」とよく言われる。物事には全て原因があって、結果がある。では着崩れの原因は何処にあるのか。先ずその原因の第一は『悪い姿勢』にある。姿勢が悪ければ、どんなに腕の良い着付師に着付けて貰っても必ずと言って良いほど着崩れる。女性の着物も同様である。

 着物は直線仕立ててある。姿勢が悪く体が曲線になっていると着物が体にフィットしない。着付けた時は誤魔化せても必ず着崩れてくる。

 男性の場合、次に着崩れの原因として挙げられるのは『帯の居処』と『帯を締める強さ』である。

 『帯の居処』が悪いと帯は細いウエストの方へと上がってくる。又、どんなに紐や帯できつく締めても着崩れをする。言い換えればきつく締めるから帯はウエストの方まで上がって『天才バカボン』状態となる。

 帯はぎゅっと締めないで軽く廻して止まった位、締めると言うより巻き付けると言う感覚で。締めた帯に腕が一本入る位のゆとりが欲しい。

 『帯の居処』については別項でお話しする。

★その二 きちんと着ている

 着崩れの原因一つは「きちんと着ている」事にある。きちんと着る事が着崩れの原因になるとは一見理屈に合わない事のように思えるが、その「きちんと」が問題なのである。

 昨今雑誌などで見かける着物姿は皺一つなく、正に寸分の隙もない程である。読者はその着物姿が「きちんと正しく」着ていると誤解して、出来るだけ皺がない様に、胸元もきっちりと合わせて着ようとする。じっと立って撮影するだけならいいが、これでは動けない。(筆者も長年モデル業をしているが、着物の撮影の度に「もっとゆとりの有る着付けを」と言って来たがクライアントに受け入れて貰えなかった。着物の専門家である織元や呉服の問屋さんも然りです。もっとも呉服屋さんが日常着物を着ていないのですから理解出来ないのも無理からぬ事ながら、そもそも着崩れとは着物を着た時の状態から衿元、裾、帯の居処等がずれて崩れてしまうことを言う

 人間の体は思っている以上に複雑な動きをする物である。

 必要以上にきちんと着れば必ず着崩れを起こす。別項で詳しく説明するが、着物は動けるゆとりを持たせて着る事が基本である。

★その三 着物の中で体が踊る

 男の着物は体に纏い、一本の帯だけで止め、体の動きを上手く吸収する様に出来ている。

 せっかくきっちり着付けをしてもらったのに着崩れて困った経験は無いだろうか。いくら帯をきつく締めても着崩れる。特に男性は帯をきつく締めれば締めるほど着崩れる

 これも不思議に思う方も居るであろうが特に男性は特別お腹の出ている人を除いて正しい着物姿勢が出来ていないで帯の居処(帯を締める位置)がしっかりと決まっていない場合(多くの着物初心者が当てはまる)帯をきつく締めれば締める程ウエストの細い処に帯は逃げて行く。その結果天才バカボン状態になる。 

 その上、帯をきつく締めていると着崩れた時、直すのが大変である。 

 着物を着付けた状態でまっすぐに立っていれば着崩れはしないが、歩いたり座ったりお辞儀をしたり、お手洗いにいったり、生活の中での様々な動きを計算に入れた着付けをしなければ着崩れるのも当然だ。

 では着崩れをしない為にはどうすべきか。まず第一には「上半身にゆとりを持たせる」ことである。

 例えば電車のつり革につかまる時も、両脇の帯の上にゆとりを持たせることで腕が上がりやすくなり、袖口から二の腕が見えることもなくなる。また、背筋に充分なゆとりがあればお辞儀をしても衣紋が抜けない。

 胸元も首が自由に動く程度のゆとりが欲しい。

 上半身にゆとりがあればいかにも着物を着慣れた様にも見える。その前に上半身にゆとりを持たせられる程のゆとりある寸法、自分自身に合った寸法の着物を着ることが肝心であることは言うまでも無い。

 寸法については別途述べるが着物はほんの僅かな寸法の違いで着心地も着姿も変ってくるものだが、着慣れてくるとかなりの寸法の違いは着付けや着こなしでカバーできる。まさに着物は魔法の様な衣類とも言える。

 常着として着物を着ていた時代(昭和初期頃まで)の写真を見た事が有りますか。今流に言えば全て着崩れた状態に見えるがその多くは着崩れではなくゆとりの有る本来の生活の中での着物の着方なのである。

 着物の着方は男性も女性も「下すぼまり」「上ゆったり」が基本である。上半身は想像以上に複雑で大きな動きをするものだ。ゆとりを持たせて着れば上半身がどのように動いても着物が引っ張られない。 胸元も自分が見下ろせば、はだけているように見えても鏡に映して正面から見るとそれ程でもないものである。極端にいえば着物の中で体が踊る位にゆとりを持たせる事である。着崩れの原因は動くことによって着物が引っ張られ、着物につられて帯まで居処からずれてしまう事である。どんなに動いても着物が引っ張られない着付けが、着崩れない着付けなのである。

 また、帯を強く締めていると着物につられて帯まで上がってしまい、着崩れた時に直すことが難しくなる。帯は力任せに締め上げるのではなく、軽く巻き付ける位がちょうど良い。それ以上に力を入れて締めると締めすぎとなる。何度も試行錯誤して自分に合った締め具合を見付けて欲しい。

 帯は「前を低く、後を高く」の前下がりが基本である。姿勢を正しくして、帯もゆとりが有れば自然と前が下方向に落ちて正しい帯の居処におさまる物なである。帯の居処については別項にて詳しく説明する。

 着物は着物なりに自然に着ることが肝心である。着物は着慣れてくると至極自然で合理的な衣類である事がだんだん解かって来る。

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