着物の達人講座

『着物の達人講座』 四 「とにかく着よう」 

 後はとにかく着る事が一番である。着物の「物」(生地や織、染めなどの商品としての着物)についての知識よりとにかく「着る」事だ。男性も女性も細かい事にとらわれず、とにかく一度でも多く着る事である。

 着物についての様々な決まり事も、特別な階層や特別なお金持ちではない限りあまり気にする必要はない。出来る人はその決まり事を守ればいいし、守れないから着物を着ないと言うのは本末転倒である。

 季節も難しく考えないで、寒ければ袷、暖かくなれば単衣、暑くなれば薄物、それぞれ自身の感覚で着ればよい。庶民の生活着、ささやかなお洒落を楽しむ位の軽い気持ちで着物に親しんで欲しいものだ。

 余談ながら、長屋住まいの庶民は初冬は袷の着物を着、寒くなるとその着物に綿を入れ、旧暦の四月一日(四月一日と書いて綿貫と読む)頃になると綿を取り出し、又袷で着る。暖かくなると裏を外して単衣として着る。正に手品の如くである。こんな便利な衣服が他に有るだろうか。

 着物を着慣れてくると、立ち居振る舞いも自然と着物に適したものになって来る。昔の人が「習うより慣れろ」とか「馬には乗ってみろ、人には添うてみろ」とはよく言ったものである。どんなに着物についての「物」の知識を持っていても自分自身で着なければ 『着物の達人』にはなれないのである。

 着物で街を歩くと今までと景色さえ変わって見えるから不思議なものだ。

 また、日本人が日本の着物を着て街を歩くと道行く人が振り返って見ると云うのもおかしな話だが、見られる事もまた『着物の達人』への近道である。私事ながら筆者も着物生活に入った頃は他人の視線に少し気恥ずかしい思いをした。その頃は街を歩くとよく声を掛けられた。しかし、今はいっこうに声が掛からない。私自年を取った所為も有るが、手前味噌ながら、ようやく着物が身について、私の着物姿が街に馴染んで悪目立しなくなったのだと自負している。

 着物は何度も袖を通している内にだんだん身につい来るから不思議なものだ。恐れず、傍目を気にせず着慣れることが一番。背筋を伸ばして胸を張って堂々と自信を持って着れば着物の達人はもうすぐだ。何度も着ている内に自然とコツも掴めて来る。

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